目の前の紙を取り上げ旦那が目を通した。
旦「政、これで奉行所からの求釈明は全部なんだね・・・・」
政はヘイと頷いてから、旦那の言葉を待った。旦那は何度か読み直してから鉄にそれを渡した。
鉄も何度か読み直したが、わずか200文字足らずの文章を読み終わるのにそう時間はかからなかった。
再審請求の理由は,嘱託鑑定人の供述内容を踏まえて,請求人運転車両が中央分離帯付近で一時停止したが,片勾配(道路構造令16条。いわゆるカント)ないしは合成勾配(道路構造令25条)により請求人運転車両からみれば下り坂で,衝突の前後を問わず,何らかの原因により滑走し,最終的に,甲第2号証の実況見分調書添付の現場見取図⑤で停止したとの主張を含むものか。
半紙ほどの紙一枚にそのように書かれていた
鉄「いつもながらの奉行所文体なんですがね・・・今回は特に難解な内容ですねぇ・・」
政「兄貴ぃ 内容も内容なんですが、なんで、今になって奉行所は求釈明を弁護の先生方に求めてきたんですか? お裁きは10月の末に結審したんでしょう。結審したからには・・・・」
鉄「調べは尽くしたってことだよな。しかし、調べが足りないから、求釈明という質問状が来たわけだ。弁護の先生方が結審を急ぐ武田奉行の忌避を申し出たのは9月。聞く耳持たずに却下したのが10月。その間に三者行儀は一度も開かれず、10月末に検察・弁護の両方から最終意見書が出て結審した・・・・」
政「その間 証拠のやり取りの動きはなかったはずですよ。」
鉄「となりゃぁ・・最後の三者協議は9月12日。そこで何かあったのか・・・」
政「その時の協議では、奉行は『専門家の話は聞いてもわからない』という理由で三宅先生の証人喚問を却下して、三宅意見書は奉行がしぶしぶ受け取ったってことでしたが・・あっ、それと奉行忌避の宣告ですね。」
それまで、黙っていた旦那が政の方を向いた。
旦「政、それだよ。奉行忌避の申立書だ。奉行はその申立書を読んで、検察最終意見書を採用できなくなったにちがいない」
旦「そして、その申立書の内容を検察は知らないから、検察最終意見書に三宅意見書への反論を書けなかったとしたら、どうだい?」
政「検察が忌避申し立ての内容を知らない・・何故ですかい?」
鉄「ばぁ~か。再審請求の事実調べに関係ない事だろう?検察に忌避申立書の写しを回す必要はないんだよ。それに旦那、忌避申し立て書が地裁で却下され、即時抗告で高松高裁で真面目に審理され、最高裁まで上がりましたが・・・その結果 多く裁判官がこの再審の中身を知ってしっまった。ってのも影響があったはずですよね」
旦「それはありえるねぇ。奉行ってのは民には面の皮は厚いが、同僚にどう見られるのかってのは神経質だからね。 これで今回の求釈明書の意図が見えてきたな・・」
鉄は「ヘイ」と頷いたが、政は要を得ない顔をして首をかしげた
続く